京都地方裁判所 昭和27年(行)5号 判決
原告 橋本菊次郎
被告 京都市固定資産評価審査委員会 外一名
一、主 文
原告より被告委員会になした昭和二十六年度固定資産評価審査請求に対し同被告が同年十一月二十七日別紙目録記載の建物の価格を金百八万九千円とした決定中金七十八万五千二百円を超える部分はこれを取消す。右被告委員会の決定に対し原告より被告知事になした訴願につき同被告が昭和二十七年三月三十一日なした訴願棄却の裁決はこれを取消す。
訴訟費用は被告等の負担とする。
二、事 実
原告訴訟代理人は主文第一、二項と同旨の判決を求め、その請求の原因として、原告所有の別紙目録記載の建物(以下本件建物と言う)につき昭和二十六年度固定資産台帳価格が金百三十一万四千円と登録せられたので、原告は被告委員会に対し審査の請求をしたところ同被告は審査の結果昭和二十六年十一月二十七日右価格を金百八万九千円と決定した。しかし右決定価格はなお高額に失するので原告は同年十二月二十五日被告知事に対し右決定につき訴願を提起したところ、同被告は昭和二十七年三月三十一日訴願棄却の裁決をなし右裁決書は同年四月二十九日原告に到達した。しかしながら右建物は原告の亡父訴外橋本宇助が明治四十三年頃他の古家を移して建設したものであつて既に四十余年を経過し、且その間右宇助はこれを酒類小売業の店舗として使用したので腐朽汚損甚しく建物の損耗度利用価値等を考慮すればその価格は右決定当時において金七十八万五千二百円以上に及ぶものではない。のみならず一般的傾向として固定資産評価格は年々高騰する傾向にあるにも拘らず右建物の評価格は昭和二十六年度においては前記の如く金百八万九千円と決定されたが昭和二十七年度は金七十八万九千円、昭和二十八年度は金八十三万一千円とそれぞれ昭和二十六年度より低廉に決定せられておりこの事実からしても本件昭和二十六年度の評価の失当なること明かである。よつて被告等の前記決定及び裁決は違法であるからその取消変更を求めるため本訴請求に及んだ次第である。と述べ、
被告等の主張に対し地方税法第三百四十一条により価格とは適正な時価であること明白であり、しかしてその適正な時価とは評価決定のなされた日(本件建物については被告委員会の審査決定のあつた昭和二十六年十一月二十七日)における譲渡価格である。被告等は地方税法第三百八十八条により地方財政委員会の示した基準に従つたから本件建物の評価には何ら違法の点はないと主張するが地方財政委員会が評価基準を示すのは前記法条に明記されてある通り市町村長に対し技術的援助を与える方法としてなすに過ぎず右技術的援助なるものは行政庁の内部関係における行為であつて一般人を拘束するものでなく右基準は公平に価格を定めるための事務取扱上の標準としての指針にすぎないから被告等がこれに従つて評価をなしたからと云つてその価格が適正であるとは言い得ない、と述べた(立証省略)。
被告等訴訟代理人等はそれぞれ「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする」との判決を求め、答弁として別紙目録記載の建物につき被告委員会及び被告知事が各原告主張の日、原告主張のような決定及び裁決をなし、その旨の通知をしたことは認めると述べ、
右決定及び裁決の基礎として次のとおり主張した。地方税法第三百四十一条は「価格とは適正な時価を言う」と規定し、地方財政委員会は同法第三百八十八条にもとづき評価の基準を示しているが、右基準によれば「木造家屋については標準家屋を設定し、該家屋の標準再建築価格を求め該標準再建築価格に比準して個々の家屋の再建築価格を求め、これに損耗度、利用価値等を考慮して評価額を算出する」ものとしている。京都市においても右地方財政委員会の指示する基準に従つて標準家屋を設定しその標準再建築価格を算定しているので被告等はこれに比率して別紙第一評価明細書記載のとおり昭和二十六年度の価格を算定した。即ち右標準再建築価格に比準して本件建物の再建築価格を算出し損耗による減価率を同じく前記基準に従つて四十パーセント即ち残存率六十パーセントとして算定し、更に建物の価格はその所在する地域の状況により影響を受けるものであり本件建物の所在地は市の中心部に属し商業地域で交通の便もよいから地価が建物の価格に及ぼす影響も考慮して右に評価した価格の五パーセント増として金百八万九千円と決定した次第である。原告は時価とは譲渡価格であると主張するが、この点については被告も争わないのであつて(但しその基準とすべき日は地方税法第四百八条により昭和二十六年一月一日である)ただ予算労力等に限りのある行政庁において如何にして正確に近い譲渡価格を算出するかに問題があり、これを解決するために地方税法第三百八十八条が地方財政委員会をして評価の基準を示させることとしたのである。この基準が合理的である以上これに従つてなされた評価は妥当であり従つて被告委員会の決定には何ら違法の点なく、これを維持した被告知事の裁決も亦正当である。
なお昭和二十七年度及び昭和二十八年度において本件建物の台帳価格が金七十八万九千円及び金八十三万一千円であること、一般的傾向として昭和二十六年度以降固定資産評価額が年々高騰していることはいずれも原告主張のとおりであるが、その計算の基礎は昭和二十七年度は別紙第二評価明細書、昭和二十八年度は別紙第三評価明細書のとおりであつて、昭和二十六年度、昭和二十七年度及び昭和二十八年度の評価格が各々異るに至つた事情は左の如くである。
(一) 昭和二十七、八年度において店舗及び二階建倉庫について床面積の控除がなされているのは二階建の場合平家建と同一標準で評価すると平家建に比し評価格が割当になるところからこれを是正するため二階坪の二割を控除した。昭和二十六年度においては右控除がなされていないが昭和二十七年度以降二階建建物につき床面積の控除をなすよう基準が改められたのか、或は昭和二十六年度においても控除をなすべきであつたのかは明かでない。
(二) 再建築価格の坪当価格が昭和二十六年度と昭和二十七、八年度において相違を来しているのは一般物価の値上りを考慮したものである、平家建倉庫のみ昭和二十八年度において昭和二十七年度より低下しているのは該倉庫の実情から価格を是正する必要を認め等外として低下させたものである。
(三) 家屋年齢が昭和二十六年度においてはいずれも五十五年となつているにも拘らず昭和二十七、八年度においてはその中店舗と便所が四十一年、倉庫が六十年となつているのはこの判定が家屋台帳等の公簿にもとづきなされたものでなく調査の際所有者たる原告から聴取したままで判定したためである。
(四) 損耗による減価率が昭和二十六年度においては一様に損耗四十パーセントとなつているにも拘らず昭和二十七年度においては店舗及び便所が損耗三十パーセント年齢六十一パーセント平均四十五パーセント、倉庫がいずれも損耗三十パーセント年齢八十パーセント平均五十五パーセントとなつており昭和二十八年度においては店舗及び便所が損耗四十五パーセント年齢六十一パーセント平均五十三パーセント、倉庫がいずれも損耗三十パーセント年齢八十パーセント平均五十五パーセントとなつているのは昭和二十七年度以降地方財政委員会の方針により家屋台帳や同委員会の指示等によつて客観的に定まる経年減価率より得た数値と実地調査等により判断した家屋損耗度より計算した減価数値等の算術的平均を出すことになつたためで昭和二十七、八年度において調査による損耗度が昭和二十六年度より小になつているのは前記経年減価率による損耗度を考慮する結果その判定を厳格にするようになつたためである。
(五) 京都市においては固定資産税納税者の急激な税負担の増高を緩和する趣旨にもとづき旧賃貸価格の千八百倍を超過するものについてはその超過する部分の五十パーセントを減額することとしているが、その減額が昭和二十七年度のみなされ昭和二十六、八年度においてなされていないのは本件建物の旧賃貸価格が坪当金六百六十六円であるところ、たまたま昭和二十七年度において誤つてこれを金三百五十四円としたためである。
と述べた(立証省略)。
当裁判所は職権を以て証人吉光卓美、同中谷章二を訊問した。
三、理 由
被告委員会が原告よりなされた別紙目録記載の建物(以下本件建物と言う)の昭和二十六年度固定資産評価審査請求に対し、その価格を金百八万九千円と決定したこと及び被告知事が原告よりなされた右決定に対する訴願につき訴願棄却の裁決をなしたことはいずれも当事者間に争がない。
よつて被告委員会の決定した本件建物の昭和二十六年度固定資産評価格が適正であるか否かについて検討しよう。
被告等は地方税法第三百八十八条により地方財政委員会が固定資産の評価の基準を示しており被告委員会の決定は合理的な右基準に従つてなされたものであるから違法の点はないと主張し、原告は地方財政委員会の指示する基準は単に市町村長に対し技術的援助を与える方法に過ぎないからこれに従つたからとて右決定価格が適正であるとは言い得ないと主張するので先ずこの点について考えるに地方税法第三百四十一条は「価格とは適正な時価を言う」と規定し同法第四百三条第一項は「市町村長は同法第三百八十九条及び第三百九十一条の規定によつて地方財政委員会が固定資産を評価する場合を除く外独自の判断と責任をもつて固定資産の価格を決定しなければならない」ものとしているが、右に言う「適正な時価」そのものの算定は頗る困難であり、且その算定の衝に当る市町村吏員が必ずしも凡て専門的知識を有するものとは限らないし、又調査に必要な予算及び労力には限度があり更にはもし同種固定資産の時価の算定が各場合において異つた評価方法によつてなされるとすれば被課税者間において不公平な結果をもたらすことともなる、地方税法第三百八十一条第二項(昭和二十七年法律第二百六十二号による改正以前のもの)が地方財政委員は市町村長に対し固定資産の評価の基準を示すべきこととしているのは、右のような隘路乃至弊害を除去して徴税の簡便化を計り税収入の確保と徴税費用の節減を期したものと解せられ又かくすることが畢竟公共の福祉にも適合する所以であると考えられる。従つて右基準は市町村長が必ずこれに従うことを要し又これに従つた評価が無条件に適法になるというが如き拘束力をもつものでないこと勿論であるけれども、それが著しく不合理なものでない限りこれに従つて評価をなす方法自体は適当なものと謂わねばならない。しかして成立に争のない乙第一号証の二によれば右基準は木造家屋については「標準家屋を設定し当該家屋の標準再建築価格を求め該標準再建築価格に比準して個々の家屋の再建築価格を求めこれに損耗度利用価値等を考慮して評価額を算出する」というにあり、鑑定人中西三郎、同二宮和朋の各訊問の結果を綜合すれば右のような方法も家屋の時価算定方法の中一つの科学的方法として承認されていることが認められるから右基準による評価そのものには何ら違法の点はないものと考えられる。
そこで次に被告委員会が本件建物を評価するに当り右基準の適用の過程において不当な過誤を犯していないか否かについて調べて見よう。本件建物の評価格が昭和二十六年度において金百八万九千円と決定されながら昭和二十七年度は金七十八万九千円、昭和二十八年度は金八十三万一千円と決定されたことは当事者間に争がない、一般的傾向として昭和二十六年度以降固定資産評価格は漸次高騰する傾向にあること被告の自認するところであるにも拘らず、本件建物について昭和二十七、八年度の評価格が昭和二十六年度のそれより低下している所以を考えて見るのにその理由として被告の主張するものの中昭和二十七年度においては家屋の賃貸価格算定の違算により誤つて所定の減額をなしたため多少低下を来したことは別とし、(賃貸価格による限度額調整を行わなければ昭和二十七年度評価額は九十四万二千百三十三円)又坪当再建築価格が評価格の低下とは逆にむしろ高騰している点は物価の値上りを考慮して首肯し得るところであるが、低下の主たる理由たる損耗度の算定については昭和二十六年度の本件建物全部を通じて四十パーセントに対し昭和二十七年度は店舗、便所が各四十五パーセント、倉庫がいずれも五十五パーセント、昭和二十八年度は店舗、便所が各五十三パーセント、倉庫がいずれも五十五パーセントと著しい相違を来したことについては何ら首肯するに足るべき根拠を見出すことはできない、もつとも証人中谷章二の証言によれば昭和二十六年度において損耗度の判定をもつぱら実地調査のみによりただその際家屋年齢による評価を加味する方法をとつたに過ぎないのに反し昭和二十七年度以降は家屋全部を基礎とした経年減価率により算出した損耗度と実地調査により判断したそれとの算術的平均をとつたことが認められるが、いずれの方法によるも僅々一、二年の経過によつて損耗度にかかる大差が生じるいわれがなく、又全く同一方法をとつた昭和二十七、八年度において、かかる差違が生じる理由がないものと謂わねばならない。更に昭和二十七、八年度において店舗及び二階建倉庫について床面積の控除がなされている点についてはかかる控除をなすべきことに定められたのが昭和二十七年度以降か或はそれ以前にもそうであつたのかは不明であるが、いずれにせよ二階建の場合平家建と同一標準で評価すれば平家建に比し評価格が割高になることは昭和二十六年度においても又同様であるといわねばならないから、この点についても右のような控除をなさなかつた合理的理由を発見すること困難である。そこで昭和二十六年度における本件建物の評価格をかりに坪当再建築価格並に地域考慮を同年度における被告委員会算定のとおりとし床面積の控除をなした上で損耗度を(一)昭和二十七年度における被告委員会判定に従つて計算すると金八十三万七千余円、(二)昭和二十八年度におけるそれに従つて計算すると金七十五万七千余円となる。
しかして本件建物の価格は鑑定人中西三郎の鑑定の結果によれば昭和二十六年一月一日現在金七十二万円、同年十一月二十七日現在金七十七万五千円、鑑定人二宮和朋の鑑定の結果によると昭和二十六年一月一日現在金五十三万六千二百円、同年十一月二十七日現在金七十九万五千円となつており固定資産評価の基準時は地方税法第四百八条により毎年一月一日従つて昭和二十六年度においては同年一月一日なること明かであるから同年度における右建物の価格は右鑑定人等のいずれの鑑定の結果によつても前記(二)の基礎により計算した結果より更に低廉になることが認められる。従つて被告委員会が地方財政委員会の指示する基準にもとづき昭和二十六年度の本件建物の固定資産評価格を算定したとしてもその算定には昭和二十七、八年度の算定並びに右鑑定の結果と対比して著しく不合理な点があり昭和二十六年度の評価格は少くとも被告の自認する金七十八万五千二百円以上には及ばないものと認めるのが相当である。
しからば被告委員会の決定中評価格金七十八万五千二百円を超える部分は違法であるからこれを取消すべく右決定を維持した被告知事の裁決も又違法であるからこれを取消すべきものと謂わねばならない。
よつて原告の請求は正当であるからこれを認容することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条、第九十三条第一項本文を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 岡垣久晃 千葉実二 大西勝也)
(別紙目録省略)